現在、デンバー・ナゲッツは9勝7敗でウェスタン・カンファレンス5位とまずまずの成績を残しています。昨年のカンファレンス決勝に進出した彼らは、2020-21シーズンの開幕直後こそ1勝4敗と不安なスタートを切ったものの、直近の3連勝によって勝率を5割以上に引き上げました。
ナゲッツが良い方向に進み始めた理由は、いつものように25歳の若きスターのセンターであるニコラ・ヨキッチの活躍が影響しています。今のヨキッチはサイズとスキルセット、バスケットボールIQを駆使してディフェンダーを手玉に取り、オフェンス面で何でもできる選手としての地位を確立しています。
ヨキッチは優れたパス能力を持ったセンターとしての認識が強いですが、今季は明らかに別のレベルに到達しているように見えます。彼が今のパフォーマンスを続け、チームの勝率をさらに伸ばすことができれば、最終的にシーズンMVPを受賞することも夢ではないでしょう。
テレビゲームのようなスタッツ
ヨキッチは様々な方法でコートに影響を与えることができる選手です。スタッツがそれを表しているように、今季の彼はここまでの16試合で平均25.8得点、12.0リバウンド、9.6アシストを記録しています。まだ多くの試合が残っているものの、NBAの歴史上でオスカー・ロバートソンとラッセル・ウェストブルックしか達成したことのないシーズン平均トリプルダブルの達成も不可能ではないでしょう。
特にナゲッツはヨキッチのプレイメイキングを中心にオフェンスを展開するチームです。彼のビジョンはレブロン・ジェームズやクリス・ポールに匹敵するものがあるため、アシストの数字を維持したり、伸ばす可能性は大いにあり得ます。
ヨキッチのスタッツがどれだけ優れているかを示す証拠の一つは”ファンタジーポイント”と呼ばれる数字で知ることができます。ファンタジーポイントは得点を1ポイント、リバウンドを1.2ポイント、アシストを1.5ポイント、スティールとブロックを3ポイント、ターンオーバーを-1ポイントとして、スタッツによる影響力を簡易的に知ることができるものです。
今季、ヨキッチはファンタジーポイントで平均57.7ポイントを記録しており、これはリーグ1位の数字となっています。さらに驚くべきことは、2位のルカ・ドンチッチの平均53.5ポイントを大幅に上回っているということでしょう。今季のヨキッチとドンチッチは、どちらもトリプルダブルの回数でリーグ最多の5回を記録している選手です。ファンタジーポイントが必ずしも選手の価値を正確に表したものではありませんが、彼のスタッツが際立っていることは一目瞭然です。
また、今季のヨキッチは平均1.9スティールを記録しています。これまでヨキッチはディフェンスがあまり上手くない選手として評価を受けてきましたが、スティール数の増加はそんな彼の成長も示しています。依然として優れたショットブロッカーではなく、こちらは平均0.5ブロックとセンターにしては低い数字ですが、そうであってもなおファンタジーポイントで断トツのリーグ1位を記録していることが、ヨキッチのスタッツの素晴らしさにより拍車をかけています。
必要に応じて得点以外の面でも数字を残せるヨキッチは、言うなれば”スタッツ量産機”です。ダブルオーバータイムの末に勝利した最近のフェニックス・サンズ戦では、42分間の出場で29得点、22リバウンド、6アシストを記録しました。それはNBAのテレビゲーム『2K21』を現実でプレイしているようなものです。シーズン平均トリプルダブルや、1試合で20得点、20リバウンドを記録するような選手がMVP候補として挙げられるのは当然のことでしょう。
さらに驚きなのが、これほど支配的なスタッツを記録しているにもかかわらず、ヨキッチのUSG%(オフェンス終了時にボールを持っていた割合)がそれほど高くないということです。今季のヨキッチのUSG%は29.1%で、リーグ17位の数字となっています。
比較のために言うと、ウェストブルックが初めてシーズン平均トリプルダブルを達成した2016-17シーズンのUSG%は40.2%(リーグ1位)でした。少なくとも過去20年間、USG%で40%を上回ったのは彼しかいません。2度目のシーズン平均トリプルダブルを記録した2017-18シーズンは32.6%(リーグ3位)と大幅に低下したものの、いずれにしてもヨキッチの方が効率的なパフォーマンスをしていることには違いないでしょう。
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マイケル・ポーターJr.をもっと起用すべきと主張する二コラ・ヨキッチ
スキルセットに適した時代
セルビア出身のヨキッチと同様、過去にもパスやプレイメイキング能力に優れたヨーロッパ出身のセンターはいました。昨年8月にサクラメント・キングスのGM(ゼネラルマネージャー)を退任したブラデ・ディバッツや、現在インディアナ・ペイサーズで活躍するドマンタス・サボニスの父、アルヴィーダス・サボニスらはそのような選手の一人です。
しかし彼らがプレイしていた頃は1980~90年代であり、当時のNBAでセンターが要求されるのは”スキルセット”よりも”強さ”でした。NBAでのセンターの在り方が変わってきたのは本当に最近のことです。試合のペースが速くなり、ポジションの隔たりが薄くなったことによって、どんな選手であってもパスやプレイメイキング能力を活かせるようになりました。
重要なのは、その中でヨキッチが成功を収めているということでしょう。2年前のプレイオフではチームをカンファレンス準決勝に、昨年のプレイオフではカンファレンス決勝に導きました。その過程で2年連続オールスター出場も果たしています。彼が成功を収めるということは、豊富なスキルセットを持つセンターがNBAで活躍できるという証明にも繋がります。今のNBAはヨキッチに適した時代であると同時に、彼もまた成功のために何が必要であるかを示しているのです。
ニコラ・ヨキッチはMVPを受賞できるのか
2014年のドラフトで2巡目全体41位で指名されて以降、ヨキッチはキャリアを通じて過小評価されてきました。昨年のプレイオフでも、彼らが優勝候補の一角であったロサンゼルス・クリッパーズを打ち破ると予想した人々は少数派でした。しかし、ヨキッチはNBAにおけるセンターの可能性を広げているとともに、彼の周囲には優秀なタレントが揃っています。ナゲッツが高い順位でプレイオフに進出することができれば、必ずや彼が正当に評価される時は訪れるはずです。
ヨキッチがMVPを受賞するために最低限必要なことは、得点力を維持し続けることです。決してジェームズ・ハーデンのように30得点超えを連発する必要はありませんが、過去10年間のシーズンMVPのうち9回は平均25.0得点以上を記録した選手で構成されています(例外は2014-15シーズンに平均24.8得点を記録したステフィン・カリー)。今季のヨキッチはここまでキャリア最高の平均25.8得点を記録しているため、今の得点力は維持していきたいところでしょう。
大抵の場合、シーズンMVPはスタッツ面で大きなインパクトを残し、チームの顔である選手に授けられます。今のヨキッチはそのどちらも満たしており、ユニークなスーパースターとしての地位を確固たるものにする準備は着々と進んでいるようです。