2009年から2012年までのわずか3シーズンでしたが、当時のオクラホマシティ・サンダーはケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルック、ジェームズ・ハーデンといったリーグで最高の若い中核を備えていました。2012年のプレイオフではNBAファイナルに進出し、マイアミ・ヒートに1勝4敗と歯が立たなかったものの、彼らがリーグを席巻するチームになるのは時間の問題だと考えられていました。
しかし、歴史的なビッグ3が最後に一緒に戦ったのは、2012年のNBAファイナル 第5戦が最後でした。なぜなら、同年10月にハーデンがヒューストン・ロケッツへトレードされたためです。
トレード以降、ハーデンは今に至るまでに8年連続オールスター出場、6回のオールNBA1stチーム選出、そして2018年のシーズンMVPなど、才能を開花させてリーグを代表する選手の一人となりました。一方で、デュラントも2016年のオフシーズンにゴールデンステイト・ウォリアーズへ移籍したことでリーグに衝撃を与え、その後の3シーズンで2回の優勝とファイナルMVPを受賞した後、2019年のオフシーズンに現在のブルックリン・ネッツへ移籍しました。
昨季、ハーデンはロケッツでウェストブルックと再会を果たし、彼らは再び一緒にプレイできることについて興奮していましたが、シーズンを通じて最適な戦い方を確立することができませんでした。結果として、ロケッツは2020年のプレイオフのカンファレンス準決勝でロサンゼルス・レイカーズに1勝しか挙げられず、シーズンを終えることになりました。
今、ハーデンもウェストブルックもロケッツの将来に不安を感じており、チームにトレードを要求しているという噂が立っています。そして興味深いことに、ハーデンが指定している移籍先は、旧友のデュラントが所属するネッツのようです。
ハーデンがサンダーを去って以降、デュラントとハーデンがどのように関係を発展させていったのかは、あまり知られていません。ということで、彼らの8年間の関係を少し掘り下げてみましょう。
2012年10月――ハーデンがトレードされた時のデュラントの反応
ハーデンのロケッツへの移籍は、デュラントを含む多くの人々にとって衝撃的なものでした。その報道に驚きを隠せなかったのは、デュラント自身の当時のツイートが物語っています。
Wow
— Kevin Durant (@KDTrey5) October 28, 2012
トレードの数日後、ハーデンは入団会見でロケッツに移籍したことについてワクワクしていると語りつつ、デュラントはショックを受けたままであることを明かしました。
「実際にケビンと話したよ。彼はまだショックを受けていた。でも、これはビジネスだから仕方のないこと。(サンダーには)特別なものがあったけど、上手くいかなかったんだ。ビジネスである以上は、前に進まなければならない。それでも、僕らはまだブラザーでいるよ」
ESPN
2012年11月――古巣との初対戦
ハーデンがロケッツの一員としてオクラホマシティに帰ってきたのは、移籍してからすぐの出来事でした。
しかし、この日のサンダーとロケッツ、デュラントとハーデンの差は歴然でした。試合は120‐98でサンダーが快勝し、デュラントはシーズン最高の37得点を記録したのに対し、ハーデンはフィールドゴール16本中3本成功の17得点に終わったためです。
試合後のハーデンは古巣との対戦に満足しつつも、前進することを熱望しているようでした。
「彼らと対戦して、ここでプレイして、最後まで戦うだけでも良い気分だった。これで今季も戦っていけそうだよ」
ESPN
一方、デュラントは試合前日に眠ることができず、以前のチームメイトが今までと異なるユニフォームを着用していることには、違和感があったと語りました。
「試合前に別のチームのユニフォームを着ている彼を見ているだけでも、少し違う感じがする。もう過ぎたことだけど、彼に会えたのは嬉しい。彼がヒューストンで成功することを望んでいるよ。とはいえ、今日の勝利は僕らが望んでいたけどね」
ESPN
2013年4月――プレイオフ1回戦での激突
ハーデンはロケッツ移籍後1年目からキャリア初のオールスター出場を果たし、第8シードとしてロケッツを4年ぶりのプレイオフ進出に導きました。一方、サンダーは同シーズンでウェスタン・カンファレンスの最高勝率を記録したため、第1シードとしてプレイオフに進出しました。それはプレイオフの1回戦でサンダーとロケッツが激突することを意味します。
運命的とも言える対戦に、ハーデンはプレイオフが始まる前に「夢のよう」と認めずにはいられませんでした。
「(ロケッツでの)初めてのプレイオフというだけでなく、オクラホマシティに戻ることにもなる。クレイジーなことだよ。とはいえ、それが現実だ。シーズンを通じてロケッツで戦ってきたからこそ、今この場に居るんだ」
Oklahoman.com
一方、デュラントは最後にハーデンと一緒に戦った2012年のNBAファイナルを振り返りながらも、互いに前進したことを語りました。
「彼とプレイオフで一緒にプレイするのが、あれで最後になるとは思わなかった。だけど、それはかなり昔の話だ。トレード以来、多くの出来事が起こったからね。(ハーデンとのトレードで)ケビン・マーティンが加入したし、皆が良くなった。ジェームスも先に進んだんだ」
Oklahoman.com
「僕らは今、彼を友人として見ていない。もちろん皆が彼のことを知っているけど、これはロケッツとサンダーの対戦だ。ジェームス(との対戦)だけではない」
New York Daily News
2013年9月――トップ10の選手にハーデンが含まれず、デュラントが反論
ロケッツでの2年目を迎える時点で、ハーデンは既にリーグトップクラスの選手としての地位を確立し始めていました。そのため、『Sports Illustrated』がリーグのトップ選手でハーデンを11位にランク付けした時に、デュラントは反応せずにはいられませんでした。
「ジェームズ・ハーデンを見落としている」と言ったデュラントは、代わりに誰の順位を落とすべきか尋ねられると、ためらうことなくドウェイン・ウェイドの名前を挙げました。ウェイドは当時のマイアミ・ヒートの2連覇に欠かせないスーパースターの一人でした。
デュラントの発言に対し、ウェイドはインスタグラム上で次のように反応しました。
ケビン・デュラントは、ジェームズ・ハーデンが自分に代わってトップ10に入るべきだと発言している…。自分への戒め:自分の歴史上の地位を、彼に尊重させてやろう…再びね…。
これに対してデュラントは「投稿ではなく、(プレイで)見せてくれ」と反応しました。
2016年7月――デュラントのウォリアーズ移籍に対するハーデンの反応
2016年のオフシーズンにフリーエージェントを迎えたデュラントが、前シーズンにリーグの歴代最多勝記録を塗り替えたウォリアーズに移籍する決断を下したのは、言うまでもなくリーグ全体に衝撃と絶望を与えました。
当時ロケッツと契約延長を結んだばかりのハーデンは、当然のようにデュラントの決断についての考えを尋ねられました。ハーデンはウォリアーズが良いチームであることを認めながらも、ステフィン・カリーやクレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンといった3人のスターが居る中に、デュラントが加入することの欠点についても指摘しました。
「確かにウォリアーズは本当に良いチームだ。…だけど、ボールは1つしかない。それを理解しないとね」
USA Today
デュラントはフリーエージェントであったため、デュラントとハーデンがロケッツで再会する機会が無かったわけではありません。ただ、デュラントは最終的にウォリアーズを選びました。一方、ハーデンは同年のリオデジャネイロ五輪でアメリカ代表としてデュラントと一緒にプレイする機会があったものの、出場を辞退しました。
しかし、一緒にプレイする機会を逃した中でも、デュラントはハーデンのことを称賛し、彼が過小評価されていることを指摘し、まだ友人同士であることを主張しました。
2017年2月――デュラントとウェストブルックの確執には触れないハーデン
デュラントとハーデンの友情は損なわれていませんでした。しかし、デュラントのウォリアーズ移籍によって、デュラントとウェストブルックの関係には記憶に残るような亀裂が生まれました。
ただ、ハーデンは両者の確執に口を挟むことを避けました。
「今の自分は全く別のチームの所属している。2人のことはよく知っているから、必要なら助言はするよ。だけど、口を挟むことはしない。何が起きているのかも分からないからね」
ESPN
2018年4月――ハーデンこそシーズンMVPに相応しいと信じるデュラント
リーグで最高の選手の一人として見なされるようになったハーデンでしたが、意外にも彼はこの時まで一度もシーズンMVPを受賞したことがありませんでした。しかし、2017‐18シーズンにロケッツがリーグ最高勝率を記録し、ハーデン自身もリーグ最多の平均30.4得点を記録した時、デュラントは満を持してハーデンにMVPの称号が与えられるべきだと主張しました。
「彼の番だ。彼に与えるんだ。彼が勝つ時は来た」
The Athletic
また、デュラントはサンダー時代に精力的に取り組んでいた日々についても振り返りました。
「ジェームスと午前6時に練習したことを覚えている。試合をしたり、自分のスキルを磨いたりして、最高のチームにしようと取り組んでいたよ」
The Athletic
それから2か月後、デュラントの確信通りにハーデンはキャリア初のシーズンMVPを受賞しました。
2019年10月――デュラントが元チームメイトのサージ・イバカと共に、ハーデンのトレードを振り返る
デュラントがネッツに移籍した後、彼は2009年から2016年までサンダーでチームメイトだったサージ・イバカと共に、2012年のハーデンのトレードについて振り返りました。彼らは、当時のトレードがハーデンのキャリアにとって良いものであったことを信じています。
「ジェームスが僕らのチームを離れなければ、今のジェームスにはならなかっただろう」
“If James didn’t leave us, he would not be the James he is right now”@KDTrey5 and @sergeibaka reflect on the Harden trade that broke up the OKC Big 3 (@SamsungMobileUS) pic.twitter.com/i0IMBHH2KN
— Bleacher Report NBA (@BR_NBA) October 25, 2019
2020年11月――ハーデンがネッツへの移籍を要求
そして時は現在に戻り、ハーデンはデュラントと再びチームメイトになることを望んでいると報じられています。
デュラントとハーデンが最後に一緒にプレイして8シーズンが経過しました。ロケッツやネッツがハーデンのトレードにどこまで本気で取り組むかは分かりませんが、彼らは今でも強い絆で結ばれています。その関係性がある限り、次なるスーパーチームの誕生も夢ではないでしょう。
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ジェームズ・ハーデンがネッツへの移籍を希望か、チーム同士の交渉は見られず