考察

「我々はベン・シモンズをトレードしない」――76ersのダリル・モーリー運営部代表の主張はどこまで信用すべき?

ヒューストン・ロケッツのスター、ジェームズ・ハーデンがチームにトレードを要求して1ヶ月が経過しました。今でもその話題に対するリーグの関心が尽きることはなく、今後も彼がトレードされるまで収まることはないでしょう。ロケッツがラッセル・ウェストブルックと引き換えにジョン・ウォールを獲得し、クリスチャン・ウッドやデマーカス・カズンズと契約を結んだときでさえ、ハーデンの考えが変わることはありませんでした。それはロケッツとハーデンの長い将来がほぼ実現不可能であることを意味します。

ハーデンのトレードで最も引き合いに出される選手の一人は、フィラデルフィア・76ersの若きスターであるベン・シモンズです。ロケッツは毎シーズンのようにMVP級の結果を残すハーデンを手放したとしても、代わりに毎試合のようにトリプルダブル級のパフォーマンスや、ハイレベルなディフェンスをもたらしてくれるシモンズを獲得できるのであれば、その機会に飛びつこうとするのは合理的です。

しかし、こうした噂が浮上するたび、76ersは情報を否定してきました。例えば76ersの新たな指揮官であるドック・リバースHC(ヘッドコーチ)は、噂が76ersから発生したものではないとコメントを残しました。

「我々は自分たちのチームを気に入っている。(練習で)見た限り、我々はかなり特別なチームだ。トレードの噂は我々が発信源ではない」

このオフシーズンにヒューストン・ロケッツのGM(ゼネラルマネージャー)を退任し、76ersのバスケットボール運営部代表に就任したダリル・モーリーは、上記のツイートに「いいね」をつけました。また『The Athletic』のシャムス・シャラニア記者によれば、モーリーも同様にシモンズをトレードしない意思を述べました。

「我々はベン・シモンズをトレードしない。彼は我々の将来に欠かせない選手だ」

しかし、我々は彼の言葉をどこまで信用すべきなのでしょうか?

球団幹部の一人があることを明言したからといって、それが本当に実行されるとは限らないことを我々は実際に見てきました。具体的に言えば、モーリーがロケッツでGMを務めていた2019年のオフシーズンの出来事です。彼は主力のクリス・ポールをトレードしないと明言しながら、その数日後にポールをオクラホマシティ・サンダーにトレードしました。

当然、ポールはモーリーの”嘘”に失望していました。彼はトレード後に「ショックを受けた」と語りました。

「実際、トレードされる数日前にダリルと話をしたら、彼は僕をトレードするつもりはないと言っていた。誰にも知らされず、皆のところに速報として伝えられるんだ。そんなの馬鹿げている」

「チームはやりたいと思ったことを何でもやる。…ヒューストンのGMは僕に何の借りも作っていない。つまり、僕に一つの情報を与えても、それが嘘かもしれないということ」

ここで言いたいのはモーリーが非情というわけではなく、これがリーグのビジネスにおける現実であるということです。NBAの世界では状況が急速に変化するため、チームは柔軟かつ流動的に行動を起こす必要があります。もし、モーリーがポールに嘘をつくことをいとわないと感じていた場合、彼よりもまだ実績の少ないシモンズに同じことをしないとは言い切れません。

加えて、モーリーとハーデンの関係もトレードに影響を与える可能性があります。2012年にサンダーとのトレードでハーデンを獲得して以降、彼らは8シーズンで大半の成功を収めてきました。モーリーはロケッツのGMを退任した後、ハーデンについて「私の人生を変えた」と称賛していました。

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しかし、モーリーの言葉を信用すべき理由も多くあります。

例えば、ハーデンを中心に優勝争いができるチームを構築することの難しさを知っている首脳陣で、モーリーの右に出る者はおそらくいないでしょう。確かにモーリーとハーデンはロケッツで成功を収めましたが、究極の目標である優勝を叶えられたわけではありませんでした。それ以前に、彼らはウェスタン・カンファレンスの王者になることもできませんでした。いくらかは怪我(2018年のカンファレンス決勝でのポールの怪我など)を言い訳にすることができたとしても、プレイオフで本来のパフォーマンスが発揮できないことも多かったハーデンにも責任はあります。

また、将来的にハーデンよりもシモンズの方が価値のある選手に成長する可能性もあります。ハーデンは31歳であるのに対し、シモンズはまだ24歳です。ハーデンは選手として成長の限界点に達している可能性があるのに対し、シモンズはまだ成長の余地があると感じさせる選手です。さらに、ハーデンは残り2年間しか契約が保証されていないのに対し、シモンズは5年間の契約が保証されています。短期的に見ればハーデンの才能は76ersにとってプラスに働くかもしれませんが、長期的に見ればシモンズを残した方が良いことは明白です。

こうした理由から、76ersはハーデンとシモンズのトレードを踏みとどまっています。76ersがシモンズとジョエル・エンビードを中心に競争力を高めて以降、彼らを指揮してきたのはブレット・ブラウン前HCだけであったため、リバースHCが彼らをどのように活かせるのか見てみたいということもあるでしょう。

しかし、何度も言うようにNBAの世界で状況が変わるのは一瞬の出来事です。2020-21シーズンの76ersがどこまで競えるかは注目しておく必要があります。もし苦戦するようであれば、彼らはチームの再構築を求められます。最初は外部からの声に過ぎないかもしれませんが、最終的には内部から声が上がる可能性もあります。そうなれば、76ersはトレードに対するスタンスを変える必要性が出てくるでしょう。

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