考察

ジェームズ・ハーデンが4チーム間トレードでネッツに移籍、各チームを評価

NBAのスーパースター、ジェームズ・ハーデンがヒューストン・ロケッツからブルックリン・ネッツへトレードされたことを、『ESPN』のエイドリアン・ウォジナロウスキー記者と『The Athletic』のシャムス・シャラニア記者が報じています。報道によると、このトレードはネッツやロケッツのほかにインディアナ・ペイサーズ、クリーブランド・キャバリアーズも含んだ4チームで行われており、元ペイサーズのスターであるビクター・オラディポや多くのドラフト指名権も動いた大掛かりなものとなっています。

今回のトレードで各チームが獲得した選手や資産は以下の通りです。(カッコ内は元チーム)

ネッツロケッツペイサーズキャバリアーズ
ジェームズ・ハーデン(ロケッツ)ビクター・オラディポ(ペイサーズ)
ロディオンズ・クールッツ(ネッツ)
ダンテ・エクサム(キャバリアーズ)
2022年ドラフト1巡目指名権(保護無し、ネッツ)
2024年ドラフト1巡目指名権(保護無し、ネッツ)
2026年ドラフト1巡目指名権(保護無し、ネッツ)
2022年ドラフト1巡目指名権(保護無し、バックスからキャバリアーズ経由)
2021年ドラフト1巡目交換権(ネッツ)
2023年ドラフト1巡目交換権(ネッツ)
2025年ドラフト1巡目交換権(ネッツ)
2027年ドラフト1巡目交換権(ネッツ)
キャリス・ルバート(ネッツ)
2023年ドラフト2巡目指名権(ロケッツ)
ジャレット・アレン(ネッツ)
トーリアン・プリンス(ネッツ)

少なくとも、このトレードの最大の勝者の一人がハーデンであることは明らかです。2020年のオフシーズンにハーデンがチームへトレードを要求したことが報じられた後、彼はトレード先の希望の一つにネッツを挙げていました。ハーデンは2009年から2012年にかけてオクラホマシティ・サンダーでチームメイトだったケビン・デュラントと再会することになります。

しかし、ネッツがデュラント、ハーデン、カイリー・アービングといった脅威的なトリオを完成させたからといって、必ずしもネッツがこのトレードで勝利を収めたとは言えません。今回のトレードで各チームが何を獲得し、何を失ったのか、評価していくことにしましょう。

ブルックリン・ネッツ

  • 獲得:ジェームズ・ハーデン
  • 放出:キャリス・ルバート、ジャレット・アレン、トーリアン・プリンス、ロディオンズ・クールッツ、自チームのドラフト1巡目指名権×3(2022年、2024年、2026年、全て保護無し)、自チームのドラフト1巡目交換権×4(2021年、2023年、2025年、2027年)

短期的な成功のため、しかし損失はあまりにも大きい

ケビン・デュラント、ジェームズ・ハーデン、カイリー・アービングのスタートリオは、間違いなくNBAで最高レベルのオフェンスの脅威です。ネッツは今季の13試合のオフェンシブ・レーティング(100ポゼッションあたりの得点)でリーグ6位の114.1ポイントを記録しました。興味深いことに、今季平均29.4得点を記録しているデュラントはそのうち4試合に、平均27.1得点を記録しているアービングは6試合に欠場しています。ここに直近3シーズン連続で得点王に輝いているハーデンが加われば、ネッツのオフェンスに手がつけられなくなることは容易に想像できます。

しかし圧倒的なオフェンス力を身につける以外に、ネッツが大きな恩恵を得られたかどうかは疑問に思うところです。ロケッツ時代のハーデンはディフェンスに対する姿勢であまり良い評判がありませんでした。今季のネッツは最初こそディフェンス面でも良いスタートを切っていたものの、直近8試合のディフェンシブ・レーティング(100ポゼッションあたりの失点)はリーグ25位の113.2ポイントに落ち込んでいます。ハーデンの加入でこの数字が改善されることは期待すべきではないでしょう。

そして何よりも目につくのが、ハーデンを獲得するためにネッツが手放した選手やドラフト指名権の数々です。キャリス・ルバートは昨季のバブル(隔離環境)で才能を開花させ、今季も平均18.5得点を記録してチームの第3のスコアラーとして貢献していました。ジャレット・アレンは、今季の最初の7試合をベンチ起用された後、その後5試合で先発起用されており、堅実なビッグマンとして将来が有望視されていました。

加えてネッツは3つの保護条件の無いドラフト1巡目指名権と、4つのドラフト1巡目交換権を手放しました。交換権は自分たちの指名順よりも相手の指名順の方が高かった場合、その指名権を交換することができるというものです。今回であれば、ロケッツが2021年、2023年、2025年、2027年でその権利を得られることになります。

ネッツがそれまで勝ち続けることができれば、ドラフト指名権や交換権の損失は最低限に抑えることができるでしょう。しかし、それはどこまで現実的な話でしょうか?既にデュラントは32歳、ハーデンは31歳を迎えています。彼らは今後もハイレベルなパフォーマンスを見せてくれるかもしれませんが、数年後にスーパースターの地位を維持している保証はありません。ネッツが手放したルバートやトーリアン・プリンスは26歳、アレンやロディオンズ・クールッツは22歳であり、将来のネッツを支えるために必要なピースの一部であった可能性があります。

短期的な成功のために、通常よりも多くの若い選手やドラフト指名権を手放すことが間違っているとは言いません。しかし、ネッツはあまりにも多くのものを手放している印象があります。

彼らは2013年にボストン・セルティックスとのトレードでケビン・ガーネットとポール・ピアースを獲得し、代わりに2014年、2016年、2018年のドラフト1巡目指名権を手放したことで再建に苦労した過去があります。彼らはその道を再び歩むリスクを負っていることを忘れてはなりません。

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ヒューストン・ロケッツ

  • 獲得:ビクター・オラディポ、ロディオンズ・クールッツ、ダンテ・エクサム、ネッツのドラフト1巡目指名権×3(2022年、2024年、2026年、全て保護無し)、バックスの2022年ドラフト1巡目指名権(保護無し)、ネッツのドラフト1巡目交換権×4(2021年、2023年、2025年、2027年)
  • 放出:ジェームズ・ハーデン、2023年ドラフト2巡目指名権

スーパースターの偉力を最大限に活用

リーグを代表するようなスーパースターがチームを去る時はいつでも辛いものですが、ロケッツは最高の形でジェームズ・ハーデンを見送ることができたのではないでしょうか。少なくともバックスの2022年ドラフト1巡目指名権は、ヤニス・アデトクンボが延長契約を結んだことによって1巡目後半になる可能性が高いですが、それ以外の3つの保護されていない1巡目指名権と、4つのドラフト1巡目交換権は、将来のロケッツの再建を促進させる素晴らしい資産となるはずです。

少しマイナス評価な部分があるとすれば、キャリス・ルバートやジャレット・アレンよりもビクター・オラディポの獲得を選んだということでしょう。昨年1月に右膝大腿四頭筋の断裂から復帰したオラディポは、昨季にパフォーマンスを取り戻すことに苦労したものの、今季は平均20.0得点、5.7リバウンド、4.2アシストと、全盛期ほどではないにしても徐々に調子を上げています。

しかし、28歳のオラディポの契約は今季限りで終了します。一方で、26歳のルバートは今季を終えた後も2シーズンの契約が残っています。アレンは制限付きフリーエージェントであるため、その気があればチームは彼を残留させることができます。オラディポが全盛期のパフォーマンスを取り戻すことができれば評価は変わってきますが、現時点ではオラディポよりもルバートやアレンの方が他チームにとって魅力的な選手です。

とはいえ、ロケッツがこのトレードを受けた本当の理由は膨大な数のドラフト指名権です。スーパースターの衰え、もしくは移籍によってネッツが勢いを失う可能性は十分に考えられることであり、その時が来れば我々は今以上に今回のトレードが何を意味するのか知ることになるでしょう。

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インディアナ・ペイサーズ

  • 獲得:キャリス・ルバート、2023年ドラフト2巡目指名権
  • 放出:ビクター・オラディポ

給与の柔軟性を維持しつつ、発展途上の若手に置き換える

ペイサーズはリーグで最も倹約的なチームの一つであり、直近6シーズンでは全て7番目以内に給与の少ないチームとして戦ってきました。しかし、2度のオールスター出場経験を持つビクター・オラディポの存在が、将来のチームの給与に不透明性を与えていました。

ペイサーズの主要なメンバーの大半は2021-22シーズンの給与も保証されており、既にその額は合計で約1億200万ドルとなっています。彼らはその中でオラディポのフリーエージェントに対処しなければなりませんでした。オラディポは右膝の大怪我によってパフォーマンスを低下させたとはいえ、今季も堅実な形でチームに貢献していました。もしマックス契約に近い額でオラディポと再契約を結んでいれば、ペイサーズは優勝争いができるかどうか怪しい中でタックス(贅沢税)を支払うことになっていた可能性があります。

それをルバートに置き換えたのは首脳陣の見事な手腕でした。ルバートは今季を除いて残り2年間で約3,600万ドルの契約を残しています。おそらく、これはペイサーズがオラディポにオファーしなければならなかった額よりも安い契約です。

ルバートはオラディポほど優れたディフェンダーでなければ、優れたシューターでもないかもしれません。しかし、ルバートはオラディポよりも2歳若く、今も成長の過程にある選手です。そしてケビン・デュラントやカイリー・アービングの影に埋もれていたネッツとは異なり、ペイサーズでは第一線として活躍する機会が与えられ、さらに成長する可能性もあります。契約の安さ、2023年のドラフト2巡目指名権という資産も相まって、彼らは良いトレードができたと言えるでしょう。

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クリーブランド・キャバリアーズ

  • 獲得:ジャレット・アレン、トーリアン・プリンス
  • 放出:ダンテ・エクサム、バックスの2022年ドラフト1巡目指名権(保護無し)

低リスクで完璧なトレードを実現

キャバリアーズの2人の若き有望なガード、コリン・セクストンとダリアス・ガーランドが高い競争力を持ってプレイできるようになるまで、ビッグマンのアンドレ・ドラモンドとケビン・ラブは待つことができるでしょうか?そういった意味で、彼らよりも若く、セクストンやガーランドにフィットすることが期待できるジャレット・アレンを獲得したのは素晴らしい動きでした。

ラブやドラモンドと同様、アレンも2021年のオフシーズンにフリーエージェントを迎えますが、22歳のビッグマンの方が彼らよりも低リスクな賭けであることは明らかです。今季のアレンは平均得点、リバウンド、アシスト、ブロック、フィールドゴール成功率の項目でキャリア最高の数字を記録しています。シーズン終了後、キャバリアーズがアレンの残留に動かない理由は一つもありません。

手放したドラフト1巡目指名権はミルウォーキー・バックスのものです。ヤニス・アデトクンボが延長契約を結んでいるため、指名順が1巡目後半になる可能性は高く、それほど大きな価値を持たない資産です。

ダンテ・エクサムは怪我によって頻繁にコートを離れていました。960万ドルの契約を結んでいたエクサムと、些細な1巡目指名権をアレンに置き換えることができたと考えると、キャバリアーズもこのトレードの勝者であることは間違いないでしょう。

加えて、直近3シーズンで二桁得点を記録していたトーリアン・プリンスを獲得することもできました。ネッツの層の厚さから今季は平均8.1得点に留まっていましたが、機会さえあれば彼もチームに貢献してくれることが期待できます。

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『ステフィン・カリー 努力、努力、努力 自分を証明できるのは、自分だけ』

  • 原著:Marcus Thompson,2
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