NBAではソフトキャップ制度を導入しています。
これはチームがフリーエージェントを迎える選手と契約する際、一部の例外を除いてリーグが定めたサラリーキャップを超えてはならないというものです。
では、例外を適用することでサラリーキャップを超えられる条項――通称”例外条項”とは、一体何でしょうか?
今では様々な例外条項が存在していますが、その中でも最も有名な例外条項の一つとして挙げられるのが「ラリー・バード例外条項」「アーリー・バード例外条項」「ノン・バード例外条項」です。
これらは”バード権”と呼ばれる権利を行使することによって適用される例外条項であり、今回はその仕組みについてそれぞれ解説していくことにします。
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「バード権」
まず最初に、”バード権”について簡単に知識を付けておきましょう。
チームに所属したままオフシーズンにフリーエージェントを迎える選手全員が、”バード権”を適用可能な対象者となります。
「ラリー・バード例外条項」が適用されるか、「アーリー・バード例外条項」が適用されるか、「ノン・バード例外条項」が適用されるかは、その選手がチームに何年間所属していたかによって変わり、それぞれの例外条項によって結べる契約の内容も変わってきます。
「ラリー・バード例外条項」
「ラリー・バード例外条項」は、3年間以上を連続して同じチームに所属していた選手に適用される例外条項です。
3年契約であっても、1年契約を3回結んでいたとしても、違いはありません。
ただし、選手が3年間を過ごす前に別のチームにトレードされた場合、その選手の”バード権”は消失せずに移籍先のチームに引き継がれます。
つまり、3年契約を結んでいた選手がAチームで最初の2年間を過ごした後、3年目のシーズンにBチームへトレードされた場合、その選手の”バード権”もBチームが引き継ぐことになり、Bチームがその選手に対して「ラリー・バード例外条項」を適用できるようになるというわけです。
「ラリー・バード例外条項」によってオファーできる契約は、以下のようになります。
- マックス契約が可能。
- 年数は最大5年間。
- 2年目以降の昇給は最大8%。
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「アーリー・バード例外条項」
「アーリー・バード例外条項」は、2年間を連続して同じチームに所属していた選手に適用される例外条項です。
契約の方法や、トレードによる”バード権”の引き継ぎは「ラリー・バード例外条項」と同じですが、「アーリー・バード例外条項」は契約の面で「ラリー・バード例外条項」に劣ります。
「アーリー・バード例外条項」によってオファーできる契約は、以下のようになります。
- 契約の1年目の最大は、前シーズンのサラリーの175%(マックス契約のサラリーは超えないこと)か、前シーズンのリーグ全体の平均サラリーの105%の、どちらか高い方。
- 年数は最低2年間、最大4年間
- 2年目以降の昇給は最大8%。
「ノン・バード例外条項」
「ノン・バード例外条項」が適用されるのは、「ラリー・バード例外条項」と「アーリー・バード例外条項」のどちらにも当てはまらない全てのフリーエージェントですが、厳密に言えば次の3つのケースから適用されることになります。
- 1年間チームに所属していた選手。
前年のオフシーズン、もしくはシーズン途中に1年契約を結び、オフシーズンまでチームに所属していた選手には「ノン・バード例外条項」が適用されます。
- 「アーリー・バード例外条項」を適用して再契約を結べたものの、チームがそれを破棄した選手。
「アーリー・バード例外条項」を適用する場合、再契約は少なくとも2年間以上でなければならないため、必然的に「ラリー・バード例外条項」の資格を得てから1年間の契約をさらに消化ことになります。
それを回避したい場合、チームが「アーリー・バード例外条項」を破棄することによって、選手に「ノン・バード例外条項」が適用できるようになります。
ただし後述しますが、「ノン・バード例外条項」による契約は、他の2つの例外条項と比較しても劣った契約となっています。
- 「ラリー・バード例外条項」もしくは「アーリー・バード例外条項」の資格を得る予定で1年契約を結んでいたものの、シーズン途中に別のチームへトレードされた選手。
先ほど「ラリー・バード例外条項」で説明していた、1年契約を3回結ぶ場合を例に挙げてみましょう。
1年契約を3回とも同じチームで終えることで「ラリー・バード例外条項」の資格は得られますが、3回目の1年契約のシーズン途中でその選手がトレードされてしまった場合、その選手がそれまでに終えてきた契約は一切関係なく、オフシーズンには「ノン・バード例外条項」が適用されるようになってしまうのです。
つまり、3年契約を結んでいた場合は、解雇さえ無ければ契約満了時に「ラリー・バード例外条項」の資格を得られるのに対し、契約年数を分けていた場合は、その途中でトレードをされてもいけないという条件が加わるということです。
「ノン・バード例外条項」によってオファーできる契約は、以下のようになります。
- 契約の1年目の最大は、前シーズンのサラリーの120%(マックス契約のサラリーを超えないこと)か、リーグのミニマムサラリーの120%か、クオリファイング・オファーに必要なサラリー(選手が制限付きフリーエージェントだった場合)の、いずれか大きい方。
- 年数は最大4年間。
- 2年目以降の昇給は最大5%。
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まとめ
いかがでしたか?
最後に「ラリー・バード例外条項」「アーリー・バード例外条項」「ノン・バード例外条項」の違いを、それぞれ比較してみましょう。
項目 | 詳細 |
資格 | 3年間以上連続で同一チームに所属していた選手 |
最小年数 | 1年 |
最大年数 | 5年 |
サラリー上限 | マックス契約 |
昇給上限 | 8% |
項目 | 詳細 |
資格 | 2年間連続で同一チームに所属していた選手 |
最小年数 | 2年 |
最大年数 | 4年 |
サラリー上限 | 前シーズンのサラリーの175%か、リーグ平均サラリーの105%の、どちらか高い方 |
昇給上限 | 8% |
項目 | 詳細 |
資格 | ラリー・バード例外条項か、アーリー・バード例外条項に当てはまらない選手 |
最小年数 | 1年 |
最大年数 | 4年 |
サラリー上限 | 前シーズンのサラリーの120%か、ミニマムサラリーの105%か、クオリファイング・オファー(制限付きフリーエージェントのみ)の、いずれか高い方 |
昇給上限 | 5% |
そして、いずれの例外条項でも、選手がトレードされた場合は”バード権”が移籍先のチームに引き継がれるということも、忘れないようにしておきましょう。
少し複雑な制度ではありますが、基本的な例外条項である「ラリー・バード例外条項」「アーリー・バード例外条項」「ノン・バード例外条項」を知っておくことによって、オフシーズンの補強を違った観点から見ることができるようになるかもしれません。
それでは次回もお楽しみに!