2020年のオフシーズンもNBAドラフトが終了し、フリーエージェント市場の熱もすっかり落ち着いてきました。この辺りで各チームの動きを評価してみるのも面白いでしょう。
今回はセントラル・ディビジョンに属するシカゴ・ブルズ、クリーブランド・キャバリアーズ、デトロイト・ピストンズ、インディアナ・ペイサーズ、ミルウォーキー・バックスの5チームを評価していきます。今年のセントラル・ディビジョンの動きはかなり静かでした。唯一大きな動きがあったとすれば、ミルウォーキー・バックスがドリュー・ホリデーを獲得したことくらいであるため、全体的な勢力図が変わる可能性はほとんどないでしょう。来季もバックスは優勝候補の一角、ペイサーズはプレイオフ争いの常連となり、ブルズ、キャバリアーズ、ピストンズは苦戦を強いられることになりそうです。
シカゴ・ブルズ
- 昨季の成績:22勝43敗(.338)
- 再契約・契約延長:デンゼル・バレンタイン
- 入団:ギャレット・テンプル、ノア・ボンレイ、デボン・ドットソン
- ドラフト:パトリック・ウィリアムズ(4位)、マルコ・シモノビッチ(44位)
- 退団:クリス・ダン、シャキール・ハリソン
- 評価:
このオフシーズンにブルズを評価する部分があるとすれば、それはフリーエージェントによる補強ではありません。人事異動とドラフトです。
前者では、ビリー・ドノバンがヘッドコーチに就任しました。彼は2015年にオクラホマシティ・サンダーの指揮官に就任して以降、243勝157敗(.608)という好成績を残しました。サンダーがケビン・デュラントやラッセル・ウェストブルック、ポール・ジョージ、クリス・ポールといったスーパースターに恵まれていたことも関係しているかもしれませんが、いずれにしても、選手との関係に亀裂が入っていたジム・ボイレン前HC(ヘッドコーチ)の後任としては、申し分ない人選であると言えるでしょう。
後者では、ドラフト全体4位でフロリダ州立大のスモールフォワードであるパトリック・ウィリアムズ、全体44位でモンテネグロ出身のセンターであるマルコ・シモノビッチを指名しました。
ウィリアムズはACCシックスマン賞を受賞した経験のある選手であり、少なくとも大学レベルでは非常に効果的なディフェンダーとして注目を集めていました。ただ、多くのモックドラフトではウィリアムズをもう少し下位で予想していただけに、彼のポテンシャルに一切の懸念が無いわけではありません。数ヶ月前にブルズのバスケットボール運営部門代表に就任したアルトゥラス・カルニショバスは、デンバー・ナゲッツでの7年間の在職期間でドラフトと選手の育成に長けた人物として知られていました。今は、首脳陣の大胆な決断を信じるのみです。
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クリーブランド・キャバリアーズ
- 昨季の成績:19勝46敗(.292)
- 再契約・契約延長:マシュー・デラベドーバ
- 入団:ジャベール・マギー、デイミアン・ドットソン、ソン・メイカー
- ドラフト:アイザック・オコロ(5位)
- 退団:トリスタン・トンプソン、アルフォンゾ・マッキニー、アンテ・ジジッチ
- 評価:
キャバリアーズの最優先事項は、昨季最下位に終わったチームのディフェンスを改善することでした。そのための第一歩として踏み出したのが、ドラフト全体5位でアイザック・オコロを指名することでした。オコロはオフェンス面こそ課題が残っているものの、同期の中では最高のペリメーターディフェンダーの一人として評価されています。
また、ロサンゼルス・レイカーズとのトレードによって、優れたリムプロテクターのジャベール・マギーを少ない損失で獲得することに成功しました。昨季のキャバリアーズの1試合あたりの平均ブロック数は断トツでリーグ最下位であったため、ここにキャリア平均1.5ブロックを記録しているマギーが加入したのは、意味のある補強であったと言えるでしょう。その他にも、デイミアン・ドットソンも堅実な3&Dとしてチームに貢献することが期待できます。
全体的に見れば、キャバリアーズのロスターはわずかに改善されました。しかし、昨季のイースタン・カンファレンスの最下位であったチームが、一気にプレイオフ進出を視野に入れるほど飛躍したかと言われれば、そうとは言えません。そのため、彼らがシーズン中にケビン・ラブやアンドレ・ドラモンドといった見返りを多く得られそうな選手をトレードして、若い選手や将来のドラフト指名権を獲得する方向に動く可能性は十分に考えられます。
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デトロイト・ピストンズ
- 昨季の成績:20勝46敗(.303)
- 再契約・契約延長:なし
- 入団:ジェレミー・グラント、メイソン・プラムリー、ジャリル・オカフォー、ジョシュ・ジャクソン、デロン・ライト、ロドニー・マグルーダー、ウェイン・エリントン、ジャナン・ムサ
- ドラフト:キリアン・ヘイズ(7位)、アイザイア・スチュワート(16位)、サディック・ベイ(19位)、セイベン・リー(38位)
- 退団:クリスチャン・ウッド、ラングストン・ギャロウェイ、ブルース・ブラウン、ルーク・ケナード、トニー・スネル、ジョン・ヘンソン、ブランドン・ナイト、ソン・メイカー
- 評価:
元々のドラフト全体7位指名権でキリアン・ヘイズを獲得するのみならず、アイザイア・スチュワート、サディック・ベイといった1巡目指名の選手をさらに増やした時点では、ピストンズのオフシーズンはもっと高く評価されるはずでした。しかし、それ以降の彼らは大幅に失速してしまったと言えるでしょう。
最大の損失はクリスチャン・ウッドがチームを去ったことです。彼はサイン&トレードによって3年4,100万ドルでヒューストン・ロケッツへ移籍しました。ウッドが昨季と同レベルの生産性を保っていた場合、ピストンズは手頃な価値で彼を奪われてしまったことになります。
代わりに、ピストンズはジェレミー・グラントと3年6,000万ドル、メイソン・プラムリーと3年2,500万ドルの契約を結びました。しかし、これらの契約にも損失が発生しました。ピストンズはドウェイン・デッドモンとザイール・スミスにストレッチ条項を適用して解雇したためです。これによってグラント、プラムリーとの契約が可能になったものの、今後数年間に渡ってデッドモンとスミスの分割されたサラリーがピストンズのキャップに計上されることになります。ピストンズは2014年にもジョシュ・スミスにストレッチ条項を適用して解雇し、5年間に渡って年間540万ドルをキャップに残し続けてきた過去があります。
そこまでしてグラントやプラムリーを獲得する必要性があったのでしょうか?その答えはピストンズの首脳陣しか知らないことですが、客観的に見るとピストンズの再建は停滞し続けているように感じます。
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インディアナ・ペイサーズ
- 昨季の成績:45勝28敗(.616)
- 再契約・契約延長:ジャスティン・ホリデー、ジャカール・サンプソン、ブライアン・ボーエン
- 入団:ジェイレン・レキュー
- ドラフト:キャシアス・スタンリー(54位)
- 退団:TJ・リーフ
- 評価:
ペイサーズはこのオフシーズン、最も注目を集めていたフリーエージェントの一人であるインディアナポリス出身のゴードン・ヘイワードを獲得しようと、全力を尽くしていました。彼らはヘイワードを獲得するために優秀な選手や資産を失うことも覚悟し、マイルズ・ターナーやドラフト1巡目指名権を含めたサイン&トレードをボストン・セルティックスに提示したとされています。しかし、セルティックスはそのオファーを断り、最終的にヘイワードはサイン&トレードでシャーロット・ホーネッツへ移籍することになりました。
それでも、ペイサーズは何とか3年1,810万ドルの再契約でジャスティン・ホリデーを残留させました。それは決して最高の補強とは言えないものの、堅実な3&Dを比較的安く取り戻せたことは評価されるべきでしょう。
ペイサーズはチーム内の重要なフリーエージェントに対処する必要が無かったことから、ロスターのダウングレードはほとんどありません。ただしヘイワードを獲得できなかったため、目を見張るようなアップグレードもありません。良い意味では無難なオフシーズンですが、おそらくペイサーズはそうなることを避けたいと思っていたでしょう。なぜなら、彼らの周囲にはビクター・オラディポのトレードの噂が渦巻いているためです。オラディポは自身のトレード要求の噂を否定していますが、もし昨季と同様に再びプレイオフの1回戦で敗退するようであれば、彼は来年のフリーエージェントで本当にチームを去ってしまうかもしれません。
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ビクター・オラディポが自身のトレードの噂を否定「チームメイトを気に入っている」
ミルウォーキー・バックス
- 昨季の成績:56勝17敗(.767)
- 再契約・契約延長:パット・カナトン
- 入団:ドリュー・ホリデー、DJ・オーガスティン、ボビー・ポーティス、ブリン・フォーブス、トーリー・クレッグ、ニック・スタウスカス
- ドラフト:ジョーダン・ウォーラ(45位)、サム・メリル(60位)
- 退団:エリック・ブレッドソー、ジョージ・ヒル、ウェスリー・マシューズ、ロビン・ロペス、スターリング・ブラウン、アーサン・イリヤソバ、マービン・ウィリアムズ
- 評価:
バックスは2年連続シーズンMVPであるヤニス・アデトクンボを残留させるため、あらゆる手段を講じました。その代表的な動きの一つが、ドリュー・ホリデーのトレードでしょう。バックスはホリデーを獲得するため、優秀なロールプレイヤーであるエリック・ブレッドソーとジョージ・ヒル、さらには3つのドラフト1巡目指名権と2つのドラフト交換権を放出しました。代償は確かに大きいものの、少なくともホリデーがブレッドソーのアップグレードになることは間違いありません。ホリデーはプレイメイキングやアウトサイドシュート、ペリメーターディフェンスといったあらゆる部分において、高いレベルでチームに貢献することができます。
バックスにとって残念だったのは、ボグダン・ボグダノビッチを獲得できなかったことです。当初、バックスとサクラメント・キングスはボグダノビッチを含んだサイン&トレードに合意していましたが、ボグダノビッチ自身の合意が無かったため取引は無効となりました。その後、ボグダノビッチはアトランタ・ホークスと契約を結んでいます。しかし、想定外の事態が起きた後でも、バックスは可能な限り堅実な補強を行いました。
DJ・オーガスティンはバックスに欠けていたピック&ロールをもたらし、ホリデーがベンチに座っている間にオフェンスをコントロールすることができます。ボビー・ポーティスはパワーフォワード、センターを行き来できる柔軟な選手であり、ブリン・フォーブスはキャリア平均3ポイントシュート成功率 40.0%を記録している頼もしいシューターです。クレッグはフィジカルなウィングであり、試合が停滞した場面などで切り札として機能することが期待できるでしょう。
ホリデーの獲得は、まさにハイリスクハイリターンな決断です。チームが望んでいる成功を収めることができれば、アデトクンボは長期的なコミットメントを求めるかもしれません。しかし、望んだ結果に終わらなければ、最悪の場合バックスはアデトクンボもホリデーも失うことになります。この決断がどのような結果をもたらすかは、リーグで最大の関心事の一つとなっています。
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ドリュー・ホリデー「プレッシャーに耐えられないのであれば、NBAに入るべきではない」