考察

2020年のオフシーズンにおける各チームの動きを評価【サウスウェスト編】

2020年のオフシーズンもNBAドラフトが終了し、フリーエージェント市場の熱もすっかり落ち着いてきました。この辺りで各チームの動きを評価してみるのも面白いでしょう。

今回はサウスウェスト・ディビジョンに属するダラス・マーベリックス、ヒューストン・ロケッツ、メンフィス・グリズリーズ、ニューオーリンズ・ペリカンズ、サンアントニオ・スパーズの5チームを評価していきます。サウスウェスト・ディビジョンの勢力図は、この数年間で大きな変化を見せています。優勝候補の一角であったロケッツは徐々に力を落としており、常勝軍団と呼ばれたスパースは22年間続いていたプレイオフの連続出場記録が途絶えました。彼らに代わって、マーベリックス、グリズリーズ、ペリカンズは近年のドラフトやトレードで着々と力をつけています。来季のサウスウェスト・ディビジョンは、どのチームが最も勝利を重ねるか予想しにくいディビジョンの一つであるといっても過言ではないでしょう。

ダラス・マーベリックス

  • 昨季の成績:43勝32敗(.573)
  • 再契約・契約延長:ウィリー・コーリー・ステイン、トレイ・バーク、JJ・バレア
  • 入団:ジョシュ・リチャードソン、ジェームズ・ジョンソン、ウェスリー・アワンドゥ、デボンテ・パターソン、フレディ・ガレスピー、ネイト・ヒントン
  • ドラフト:ジョシュ・グリーン(18位)、タイレル・テリー(31位)、タイラー・ベイ(36位)
  • 退団:セス・カリー、デロン・ライト、ジャスティン・ジャクソン
  • 評価:

昨季、マーベリックスはオフェンシブ・レーティング(100ポゼッションあたりの得点)でリーグ1位を記録した一方で、ディフェンシブ・レーティング(100ポゼッションあたりの失点)でリーグ18位を記録したため、ディフェンス面の改善に取り組まなければならないことは明白でした。しかし、ティム・ハーダウェイJr.が来季の約1,900万ドルのプレイヤーオプションを行使して残留したことによって、オフシーズンのマーベリックスの柔軟性はほとんどありませんでした。

それでも補強を必要としていたマーベリックスが目を付けたのがトレードです。彼らはそれぞれ別のトレードでセス・カリー、デロン・ライトを放出する代わりに、ジョシュ・リチャードソン、ジェームズ・ジョンソンを獲得しました。これによってチームのアウトサイドシュート力は低下したものの、必要としていたディフェンス面の強さを得ることに成功しました。

ルカ・ドンチッチがオフェンスを率いることによって、リチャードソンはディフェンスに集中することができるようになります。相手のバックコート陣の脅威を抑えるために、一役買ってくれることでしょう。クリスタプス・ポルジンギスとジョンソンによる汎用性の高いフロントコートも魅力的です。

ドラフトで加入したジョシュ・グリーンとタイラー・ベイはインパクトのあるディフェンダーに、タイレル・テリーは厄介なシューターに成長するポテンシャルを秘めています。ただ、マーベリックスは昨季以上の成績を残すことを望んでいるため、その中でリック・カーライルHC(ヘッドコーチ)の信頼を勝ち取るのは簡単なことではありません。

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ヒューストン・ロケッツ

  • 昨季の成績:44勝28敗(.611)
  • 再契約・契約延長:ジェラルド・グリーン、ブルーノ・カボクロ
  • 入団:ジョン・ウォール、デマーカス・カズンズ、クリスチャン・ウッド、スターリング・ブラウン、ジェリン・グラント、ケニー・ウッテン、Jae'Sean・テイト、メイソン・ジョーンズ、トレベリン・クイーン、ブロドリッチ・トーマス
  • ドラフト:ケニオン・マーティンJr.(52位)
  • 退団:ラッセル・ウェストブルック、ロバート・コビントン、オースティン・リバース
  • 評価:

ロケッツのラファエル・ストーン新GM(ゼネラルマネージャー)は、ラッセル・ウェストブルックがチームを離れたいという願望を受け入れました。そして彼をワシントン・ウィザーズにトレードする代わりに、ジョン・ウォールを獲得しました。

ウォールは通算5回のオールスター出場経験を持つ選手ですが、怪我の影響で2018年12月を最後にコートには一度も立っていません。ウォールは復活に向けて準備が整っていると主張していますが、健康面を中心にウェストブルックからのダウングレードであるのは確かで、ウィザーズがウォールに加えて将来のドラフト指名権も放出したのが何よりの証拠です。

怪我のリスクという点では、新たに契約を結んだデマーカス・カズンズも同様です。彼は過去3シーズンでアキレス腱断裂や膝前十字靭帯断裂などの大怪我に悩まされ、同期間でプレイオフを含めてわずか86試合にしか出場していません。ただ、彼の場合は部分保証の1年契約であるため、ロケッツにとっては低リスクの賢明な賭けであると言えます。

注目のフリーエージェントではカズンズ以外にも、3年4,100万ドルのサイン&トレードでクリスチャン・ウッドを獲得しました。昨季、ウッドはデトロイト・ピストンズでの最後の22試合で平均19.7得点、8.1リバウンドと非常に生産的でした。現時点では試合数が少ないものの、もしシーズンを通じていく中でウッドが生産的であり続けた場合、ロケッツの取引は今以上に高く評価されることになるでしょう。

ロケッツの新たな指揮官に就任したスティーブン・サイラスの手腕にも注目です。彼は約20年間でリーグ屈指のアシスタントコーチの地位を築いてきましたが、ヘッドコーチの挑戦は今回が初めてです。ロケッツのスーパースターであるジェームズ・ハーデンにはトレードの噂もあるだけに、個性的なロケッツのロスターを上手くまとめて成功に導くのは、決して簡単なことではありません。

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メンフィス・グリズリーズ

  • 昨季の成績:34勝39敗(.466)
  • 再契約・契約延長:ディアンソニー・メルトン、Jontay・ポーター、ジョン・コンチャー
  • 入団:マリオ・ヘゾニャ、キリアン・ティリー、ショーン・マクダーモット、ジャリル・トリップ
  • ドラフト:デズモンド・ベイン(30位)、ゼイビアー・ティルマンSr.(35位)
  • 退団:アンソニー・トリバー、渡邊雄太
  • 評価:

グリズリーズは今年のドラフト指名権が枯渇していましたが、最終的には2人の選手を獲得することができました。テキサスクリスチャン大のガードであるデズモンド・ベインと、ミシガン州立大のセンターであるゼイビアー・ティルマンSr.は、どちらも同期の中では年長の選手ですが、それだけ熟練した選手という意味でもあります。ジャ・モラントとジャレン・ジャクソンJr.を中心に競争力を高めようとしているグリズリーズには、彼らがフィットすることが期待できます。

また、チームはディアンソニー・メルトンと4年3,460万ドルで再契約を結びました。昨季の平均出場時間が20分を超えていない選手にしては少し割高な契約にも見えますが、2020‐21シーズンの960万ドルの契約が、4年目には800万ドルまで下がることが報じられているため、将来的にチームのキャップスペースを脅かす心配はほとんどないでしょう。

全体的に見て、グリズリーズのロスターに大幅なアップグレードはありませんが、ダウングレードもありません。首脳陣は、昨季のプレイオフ進出にわずかに手が届かなかったロスターの成長に賭けているようです。

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ニューオーリンズ・ペリカンズ

  • 昨季の成績:30勝42敗(.417)
  • 再契約・契約延長:スティーブン・アダムス、シンダリウス・ソーンウェル
  • 入団:エリック・ブレッドソー、スティーブン・アダムス、ビリー・エルナンゴメス、ウェニエン・ガブリエル、ジャロッド・Uthoff、イケ・アニボグ、ウィル・マグネイ
  • ドラフト:カイラ・ルイスJr.(13位)
  • 退団:ドリュー・ホリデー、ダリアス・ミラー、ケンリッチ・ウィリアムズ、ジョシュ・グレイ
  • 評価:

ペリカンズはこのオフシーズンにドリュー・ホリデーをトレードすることによって、多くの見返りを獲得することに成功しました。選手ではエリック・ブレッドソーとスティーブン・アダムスといた優秀なロールプレイヤーを獲得し、資産では3つのドラフト1巡目指名権と2つのドラフト交換権を獲得しています。ブレッドソー、アダムスは、どちらも昨季は好成績を残したチームでプレイしていました。その経験は若く有望なペリカンズの選手たちの助けとなるでしょう。

一つ懸念があるとすれば、ペリカンズがトレード直後にアダムスと2年間の契約延長を結んだことです。ザイオン・ウィリアムソンが既にリム周辺で脅威となる選手として成長しているため、来年のオフシーズンにフリーエージェントを迎えるJJ・レディックがチームを去った場合、ペリカンズはスペーシングの問題を抱えることになるでしょう。

とはいえ、昨季の最優秀躍進選手賞(MIP)を受賞したブランドン・イングラムと5年契約を結んだことからも分かるように、ペリカンズはわずか1~2年先の将来を見据えているわけではありません。ホリデーが去ることはプレイオフを狙うチームにとっては致命的とも言えますが、ペリカンズは目先のプレイオフ進出よりも、いかに長期的に強力なチームを将来に築き上げるかということに焦点を当てています。そのため彼らは目先の成功の機会を望むチームから、可能な限り多くの将来的な資産を獲得しました。このオフシーズンのペリカンズは、まさに「やりたいことをやっている」ような印象です。

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サンアントニオ・スパーズ

  • 昨季の成績:32勝39敗(.451)
  • 再契約・契約延長:ヤコブ・パートル、ドリュー・ユーバンクス、クインダリー・ウェザースプーン
  • 入団:カム・レイノルズ、ケイタ・ベイツ・ディオップ
  • ドラフト:デビン・バッセル(11位)、トレイ・ジョーンズ(41位)
  • 退団:マルコ・ベリネリ、チメジ・メトゥ、ブリン・フォーブス
  • 評価:

今のスパーズは、何かを引き起こすことを待っているような状態です。ベテランのデマー・デローザン、ラマーカス・オルドリッジ、ルディ・ゲイ、パティ・ミルズは、いずれも来年のオフシーズンに契約が終了するため、4人全員が2020‐21シーズンの最後までスパーズでプレイしていたとしたら驚きです。ベテランの戦力を望むチームや、来年のオフシーズンにキャップスペースを確保したいチームにとって彼らは重宝される存在であり、それを活かしてスパーズは若い選手や資産を増やしていくことができます。

上記の4人だけでチームのサラリーの約60%を占めているため、フリーエージェントで大掛かりな動きをすることはできませんでした。その代わり、彼らにとっての楽しみはドラフト全体11位指名のデビン・バッセルです。シューターのマルコ・ベリネリがイタリアに帰国した今、バッセルは1年目から有意義な時間を過ごせるかもしれません。

プレイオフの連続出場記録が途絶えたことによって、スパーズを縛り付けるものは何もありません。来季のプレイオフ進出のプレッシャーを感じることなく、まずはデジャンテ・マレーやデリック・ホワイト、ケルドン・ジョンソン、ロニー・ウォーカー四世といった有望なバックコート陣の育成から力を入れていくことになるでしょう。

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『ステフィン・カリー 努力、努力、努力 自分を証明できるのは、自分だけ』

  • 原著:Marcus Thompson,2
  • 著:マーカス トンプソン,2
  • 翻訳:東山 真

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